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【ご相談事例】兄が提示する金額に不信感… 相続の「遺産評価額」に疑問をお持ちの方へ
📄 ご相談の背景
伊藤恵子さん(70代・女性)は、10年前に父・伊藤健三さん(仮名)が亡くなった後、お兄様である伊藤正さん(仮名)とは疎遠だったこともあり、実家の相続手続きをしないまま、月日が流れていました。
そんな恵子さんのもとに、ある日突然、正さんから一通の手紙が届きます。
「父の遺産をこちらで取得する。遺産総額は約400万円、代償金として半分の200万円を支払うので、手続きに協力してほしい」
一見すると、400万円の半分である200万円は「法定相続分通り」のようにも思えます。しかし、同封された財産目録を見ると、株式の評価額は父が亡くなった10年前のまま。さらに、恵子さんには到底納得できない「葬儀代の差し引き」まで要求されています。
(父の会社を無償で引き継いだことは、どうなっているの?)
(目録に載っていない、あの管理できない田舎の山林(負動産)はどうするつもり?)
兄の提示する「代償金200万円」という数字に、不信感と不安を覚えた恵子さん。「今さらどう対応すればいいのか分からない」「兄の言う通りにするしかないのか」と追い詰められたお気持ちで、当事務所にご相談に来られました。
💬 ご質問と弁護士の回答
質問1:「父が亡くなって10年も経っていますが、今からでも私の相続分を主張することはできますか?」
回答:
はい、もちろんです。ご安心ください。
遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い)には、法律上の期限(時効)はありません。たとえ10年、20年経過していても、相続人であることに変わりはなく、ご自身の法定相続分(法律で定められた相続割合。今回の場合、恵子さんとお兄様で原則として2分の1ずつです)を主張する権利が失われることは一切ありません。
お兄様から突然、一方的な内容の手紙が届き、大変驚かれたことと思います。まずはご自身の正当な権利があることを確認し、落ち着いて対応することが大切です。
質問2:「兄が提示した金額は妥当なのでしょうか? 過去の葬儀代を差し引くのは正しいですか? 兄は父の会社を継いでいますが、その点は考慮されないのですか?」
回答:
いずれも、お兄様の主張には法的な問題点が含まれています。
第一に、遺産の評価です。相続財産は、原則として「遺産分割を行う時点」の時価で評価されます。お兄様が提示された「10年前の株価」で計算するのは誤りであり、現在の時価で評価し直す必要があります。
第二に、葬儀費用についてです。葬儀費用は、法的には「相続債務(遺産から差し引く借金)」とは当然には扱われません。裁判例では「祭祀主宰者(通常は喪主)が負担すべきもの」とされることも多く、相続人全員の合意なく、お兄様が一方的に遺産から差し引くことは認められません。
第三に、最も重要な会社承継についてです。もしお父様から無償、あるいは著しく低い価額で会社の株式などを引き継いでいた場合、それは「特別受益(特定の相続人が生前に受けた特別な利益)」に該当する可能性が極めて高いです。
これら全てを正しく計算し直せば、遺産総額は400万円を大きく上回る可能性が高く、お兄様が提示された「代償金200万円」は、恵子さんの正当な権利を大きく下回る不当な金額であると考えられます。
ただし、特に特別受益を法的に主張するには、「無償で引き継いだこと」を客観的に立証する資料(株式譲渡契約書など)が必要です。相手方が開示に協力的でない場合、ご自身での資料収集は非常に困難となります。
質問3:「実は、父とは別の祖父名義の山林(負動産)もあるようです。管理もできず価値もない土地は相続したくありません。兄が話し合いに応じない場合、どうなりますか?」
回答:
いわゆる「負動産」の問題ですね。これも相続では非常に深刻な問題です。価値がなく固定資産税だけがかかる不動産は、誰もが相続したくないと考えるのが自然です。
こうした負動産についても、遺産分割協議の中で「誰が引き継ぐか」を明確に決める必要があります。例えば、お兄様が会社という大きなプラスの財産(特別受益)を得ていることを踏まえ、負動産はすべてお兄様が引き継ぐことを条件に、代償金の調整を行うといった交渉が考えられます。
もし、当事者同士での交渉がまとまらない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。調停は、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進める法的な手続きです。
今回のケースのように、「遺産の時価評価」「特別受益」「負動産」といった複数の複雑な法的論点が絡み合う場合、ご自身だけでお兄様と交渉し、法的に妥当な証拠を集めて主張を立証するのは、精神的にも時間的にも大変なご負担となります。
📌 この事例のポイント整理
- 遺産分割協議には時効はなく、相続開始から10年以上経過していても、ご自身の法定相続分を主張する権利は失われません。
- 株式などの遺産評価は、相続開始時(死亡時)ではなく、原則として「遺産分割時」の時価で再評価する必要があります。
- 事業承継(会社の引き継ぎ)などが無償で行われた場合、それは「特別受益」として遺産分割の際に厳しく問いただすべき重要なポイントです。
- 葬儀費用は、当然に遺産から差し引かれるものではなく、相続人全員の合意なく一方的に主張できるものではありません。
- 価値のない山林や原野などの「負動産」の存在も忘れず、誰がどのように引き継ぐのかを明確に決定することが、将来のトラブルを防ぐために重要です。
📣 弁護士からのアドバイス:「今さら」ではありません。その「手紙」が解決のスタートです
今回のように、長年相続手続きを放置していたところ、他の相続人から突然、一方的な要求が書かれた手紙が届き、問題が発覚するケースは決して珍しくありません。
多くの方が「今さら面倒なことを…」「10年も経ったのだから、相手の言う通りにするしかないのか」と諦めそうになってしまいます。しかし、それは間違いです。
相続を放置する期間が長引けば長引くほど、
- 遺産の全体像が把握しにくくなる(通帳が破棄される、など)
- 相続人がさらに亡くなり(数次相続)、関係者が増えて話し合いが困難になる
- 不動産や株価の価値が変動し、評価が複雑になる
といったリスクが高まるばかりです。
お兄様からの手紙は、恵子さんを困惑させるものでしたが、見方を変えれば、10年間手つかずだった問題を法的にきちんと清算するための「最後のきっかけ」になったとも言えます。
その手紙に書かれた「代償金200万円」という不当な金額に、直感的に「おかしい」と感じたご自身の感覚をどうか大切にしてください。お一人で抱え込み、言われるがままに実印を押してしまう前に、まずは法律の専門家にご相談ください。私たちが冷静に状況を整理し、あなたの正当な権利を守るために尽力いたします。
🏢 相続のご相談は、大東法律事務所へ
相続問題は、時間が経つほど関係者の感情もこじれ、法的な問題も複雑になりがちです。
ご親族から突然、遺産分割に関する連絡が来て戸惑っている方、何から手をつけていいか分からず不安な方、相手方の提示内容に「おかしい」と疑問をお持ちの方は、まずはご自身の正当な権利を知ることから始めませんか?
私たち大東法律事務所が、あなたの不安に真摯に寄り添い、円満な解決までしっかりとサポートいたします。
当事務所では、相続に関する初回のご相談は無料となっております。
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