相続などにより1つの不動産を複数名で共有している場合、その不動産の大規模修繕や建替え、売却を行う場合、原則として共有者全員の同意が必要となります。
そのため、共有者が高齢になると、共有者の1人が認知症で判断能力を失ったり、亡くなって相続が発生するなどして、不動産の管理・処分がうまくできなくなるリスクがあります。
このようなリスクを回避するためには、本人らが元気で十分に判断能力があるうちに、あらかじめ対策を講じておくことが大切です。
ここでは、家族信託の活用による共有名義人の認知症・相続対策についてご説明します。
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相談事例
父親から相続した賃貸マンションを、兄弟4人の共有名義で所有しています。
これまで長男にマンションの管理を任せていたのですが、最近長男の物忘れが進んでいるようです。また、長女も体調を崩しているようで、今後のことが心配です。
建物も古くなっており、大規模修繕や建替え、場合によっては売却も検討しなければいけません。
今後、安心してマンションを管理・処分するために、どのように対策しておけば良いでしょうか。
高齢者による共有不動産の問題点
共有名義の不動産の大規模修繕や建替え、売却を行う場合、原則として共有者全員の同意が必要となります。
そのため、もし共有者の1人でも認知症などにより判断能力を失った場合、同意が得られず、大規模修繕や建替え、売却をすることが出来なくなってしまいます。
更に、もし共有者の1人が亡くなり相続が発生してしまうと、共有の名義はさらにその相続人の数だけ増えることになります。
対策を取らないまま相続が進めば、共有持分が細分化し、話し合いが困難となり、不動産の処分が非常に困難となる可能性があります。
このように、共有不動産は管理処分権が分散しているため、共有者全員の同意が得られないと処分ができなくなるという問題があります。
家族信託の活用
家族信託によって受託者に共有持分の管理処分権限を集めることにより、共有者の認知症による判断能力の喪失や、相続による持分の分散リスクを回避することができます。
本件の事例では、例えば次のように家族信託を設定することが考えられます。
受託者兼受益者 :兄弟4名
受託者 :長男の子
これにより、受託者である長男の子は、兄弟4人に代わって賃貸マンションの管理を行い、信託の範囲内で建物の修繕や建替え、売却を行うことが可能となります。
兄弟4人は賃貸マンションから発生する収益を確保したまま、マンションの管理を長男の子に任せることで、安心して老後を過ごすことが可能となります。
そして、長男の認知症が進み判断能力が失われてしまった場合や、長女の体調が悪化して亡くなってしまい相続が発生した場合でも、長男の子は、引き続き信託の範囲内で建物の修繕や建替え、売却といった不動産の管理・処分を進めることができます。
このように、共有名義の不動産がある場合、家族信託によって受託者に管理処分権限を集めることで、共有者の判断能力の喪失や、相続による持分の分散リスクを回避することができます。