障がいのある子がいらっしゃる場合、両親が生きている間は、その子の介護や経済的な扶養をしていくことができます。
しかし、多くの場合は両親のほうが子よりも先に亡くなることになります。また、両親が認知症などになり、介護・扶養が困難となることも考えられます。
障がいのある子が将来的にも安心して暮らせるようにするためには、親が元気で十分に判断能力があるうちにあらかじめ対策を講じておくことが大切です。
ここでは、障がいのある子のための家族信託の活用例についてご説明します。
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相談事例
長男は重度の障がいを持ち、判断能力が欠如しています。自立して生活することはできず、日常生活のケアが必要です。
私たち両親が生活の面倒を見ておりますが、将来何かあって面倒を見れなくなった時や、私たちが亡くなった場合には、施設に入所することになります。
長男には十分な財産を遺しておく予定ですが、長男が自分で財産を管理したり、自分で施設への入所手続をすることはできません。
私たちには長男以外に子はいないため、将来の長男の世話は甥(長男の従兄)にお願いしようと考えています。
長男が将来的に安心して暮らせるよう、どのように対策しておけば良いでしょうか。
福祉型信託の活用
障がいのある子を受益者とし、信頼できる親族又は第三者を受託者とする信託を設定することで、障がいのある子が財産管理に困らないように備えることができます。
このような障がい者の生活支援のための信託を、福祉型信託と言います。
福祉型信託では、受益者が亡くなるまで何十年もの間、受託者に財産の管理をしてもらうことになります。そのため、受益者より上の世代の方よりも、兄弟や従兄弟など、受益者と同世代か若い世代の方に受託者となってもらうのが良いでしょう。
また、福祉団体、NPO法人といった非営利団体や信託会社などに受託者になってもらうことも有益です。
本件の事例では、例えば次のように家族信託を設定することが考えられます。
- 委託者兼第一受益者 :両親
- 第二受益者 :長男
- 受託者 :甥
これにより、受託者である甥は、両親が認知症になったり亡くなったりした際、両親の代わりに長男の財産の管理や施設への入所手続を行うことが可能となります。
残余財産の承継先を指定する
家族信託では、委託者は信託終了後の残余財産の帰属先を指定することができます。
この帰属先として受託者などを指定することで、その方への感謝の気持ちも実現させることが可能になります。
本件のように、長男以外に子がいない場合、長男が亡くなった後は残った財産を相続する人がおらず、国庫に帰属する可能性が高くなります。
あらかじめ残余財産の帰属先を指定しておくことで、財産を国庫に帰属させずに、有効に活用することが可能となります。
本件では、残余財産の帰属先を甥にしておくことで、長男が亡くなった場合には、それまで長男の世話をしてくれた甥に、残りの財産を取得してもらうことが可能となります。